調査票
本調査票のタイムスタディの例を図WT1に示す。各医師に配布した調査票の「表」に勤務内容を30分刻みで矢印により示す調査を12月8日から12月14日の1週間実施した。この例では、朝7時半に出勤、10時半まで診療、10時半から12時半まで診療外の業務。1時間の休憩を挟み、19時半まで、診療、診療外の業務が続く。19時半から朝までオンコール体制となり、その間に診療行為も行ったという実態が表されている。当直とオンコールは、区別が出来るように表の左下にどちらの状態であったかを丸で示すようになっている。これにより当直とオンコールを区別して解析することも可能である。また、当直中の診療実態についても解析することが可能である。
図WT1:タイムスタディの記載例
タイムスタディの集計手法について
図WT2にタイムスタディの集計例を示した。まず、年代別、性別、勤務形態別の集計を行うため、20代、男性、常勤医師の12月8日の勤務実態を例に説明する。各30分の時間幅において、該当する医師の総数で、診療中の医師数、診療外の業務中の医師数、当直・オンコール中の医師数、休日で働いていない医師の数を割り、それぞれの割合を計算する。その割合に応じて各時間帯に積み上げグラフとして描画したのが、図WT2の右図となる。例えば、午前10時には90%以上の20代男性常勤医師は診療中であることが分かり、お昼の時間にかけてその割合は下がるものの12時半で60%をわずかに下回る程度にしか下がらないのは、お昼休みを取れていない状況が反映されていると考えられる。また、17時を過ぎたあたりから、緑で示した「当直・オンコール」中の医師の割合が高くなることが分かる。深夜24時の時点では20%の20代男性常勤医師が当直、もしくはオンコール中である。
図WT2:タイムスタディの集計例
タイムスタディの集計結果
図WT3に、調査開始初日である12月8日(木)の性別、世代別、勤務形態別(常勤・非常勤)に集計した結果を掲載した。勤務時間は年齢を重ねるに従い短くなることが図としても見て取れるが、年齢を重ねるに従い、例えば男性の常勤医師を見てみると、診療外の時間が増えていくことは、会議など診療外の業務が管理職となるに従い増えていくことを表していると考えられる。また、当直・オンコールの時間を見ると、男性常勤医師では、40代まではその割合は微減程度。50代を超えて少し少なくなるが、60代でも依然として10%程度は当直・オンコール状態にあることを表している。
女性常勤医師においても、20代、30代は男性医師とそれほど大きな違いは見て取れない。しかしながら、非常勤という勤務形態で働いている女性医師においては、40代以降大きく勤務時間が変化することが見て取れる。
図WT3:12月8日(木)のタイムスタディ集計結果(世代別、性別、勤務形態別)
次に12月10日(土)の性別、年代別、勤務形態別の勤務実態を表したのが図WT4である。土曜にもかかわらず、各世代でかなりな割合の医師が勤務していることが分かる。当直・オンコールも平日と特に目立った違いは見られない。
図WT4:12月10日(土)のタイムスタディ集計結果(世代別、性別、勤務形態別)
平均勤務時間
このように可視化した勤務実態のデータを比較しやすいように平均値を用いて数字で表したのが表WT1になる。20代男性常勤医師で、診療と診療外の時間を合わせた勤務時間は57.3 時間に上る。これに当直・オンコールの待機時間が加わる状況である。当直・オンコール中に行った診療、診療外の業務は重複カウントになるため、ここでは合算した時間は示さず、診療+診療外の時間と当直・オンコールの時間を分けて記載した。しかしながら、本調査で用いたタイムスタディの表は、当直・オンコール中の診療時間、診療外の業務の時間を分けて集計可能であるので、その時間を除いた「待機時間」を計算すると20代男性常勤医師では約16時間となる。すなわち、20代男性常勤医師では、57時間+16時間で、1週間あたり平均73時間となり、33時間の超過勤務状態にある。男性常勤医師をみると、40代まで当直・オンコールの時間は大きな違いは無く、50代になると減るという状況が見て取れる。
女性医師においては、20代では、男性医師とほとんど変わらない勤務時間である。しかしながら、30代以降は差が広がる傾向にある。また、女性非常勤医師においては、30代で当直・オンコールの時間が減少する。
性別・年代別・勤務形態別に特徴を見ていくことで、
〇男性勤務医(常勤)
- 年代が上がるに従い診療外の時間が増えていく。これは、会議などの業務が管理職となるに従い増えていくことを表していると考えられる。
- 当直・オンコールの時間を見ると、40代まではその割合は微減程度。50代を超えて少し少なくなるが、60代でも依然として10%程度は当直・オンコール状態にあった。
- 20・30代は同世代の男性勤務医と同程度の勤務時間であった。
- 40代以降大きく勤務時間が短くなっていた。
等といった勤務の実態が浮かび上がってきた。
オンコールの時間を勤務時間として取り扱うか否かに対してはさまざまな意見があると推察される。しかしながら、当直の待機時間を勤務時間と見なすことには、一定のコンセンサスがあるように思われる。当直の待機時間を診療、診療外と共に勤務時間と考えると、20・30代の男性勤務医(常勤)1ヶ月あたりの残業時間は107時間、104時間となる。女性勤務医(常勤)も20代では84時間となった。このことは、超過勤務が一般化している状態が表れていると考えている。
表WT1:勤務時間、当直・オンコール時間(平均値)
表WT2には、診療科別の診療+診療外の業務時間(勤務時間)、当直・オンコールの時間の平均値を示した。勤務時間が長い順に、救急科(55.9時間)、外科系(54.7時間)と続く。当直・オンコールの時間が長いのは、産婦人科(22.8時間)、救急科(18.4時間)となる。診療科によるバラツキが見て取れる。
表WT2:診療科別の勤務時間、当直・オンコール時間(平均値)
図WT5は、勤務医について、勤務形態別(常勤・非常勤)の診療+診療外の業務時間(勤務時間)の分布である。当直オンコールの待機時間を含んでいないことに注意されたい。男女別に集計している。男性、女性共に非常勤医師において週20時間以下のような短時間勤務の医師が多くいることがわかる。青のラインで示した常勤医師については、女性医師の方が男性医師よりも鋭い分布になっていることが分かる。常勤医師に限ると、診療+診療外の業務で週60時間以上の勤務状態にあるのは、男性医師の27.7%、女性医師の17.3%である。つまり、月に超過勤務が80時間を超える医師がその割合でいることを表している。重要なのは、この時間に当直やオンコールの待機時間が加わることである。しかも、この数字は20代、30代のような若い医師だけの勤務時間ではなく、医師全体での結果であることに注意しなければならない。若い医師を中心に、超過勤務が常態化している実態があると考えられる。
図WT5:勤務医の勤務時間分布(当直・オンコールの待機時間は含まず)